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サイエンスマンの本格科学メモ

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現代物理、進化論、脳科学など、現代の科学についての個人的思考を中心に記録します。

超ひも理論

 ハドロンの理論から出発したひも理論は、ハドロンの理論としてはいったんクォークを含む標準模型に譲りましたが、素粒子とそれに関わる力だけでなく重力までも含めた統一理論として復活しました。超対称性という新たな対称性を装備して、超ひも理論として進化し、また多種にわたったひもモデルもM 理論として統一されています。superstringは、一般解説書では「超ひも」という言い方が多いですが、専門的な論文では「超弦」と訳されていることが多いようです。

 現在研究者が多く、もっとも注目を浴びているという意味で主流の理論ですが、実験可能な予言がないというような批判もまたあります。ここでは単純な批判はせず、その本質が何なのか考えながら、正しい理論はどのようなものであるべきか推察していきます。簡単に要約すれば、原理のない理論は百パーセント信用はできないし、基本的な謎が解明できないかぎり、究極の統一理論とはなりえないと考えられます。

 一般相対性理論には等価原理が、量子力学には不確定性原理というゆるぎない原理があります。等価原理により、自由落下で局所的に重力が消えることから、それらが同等であることがわかり、したがって時空の歪みにより重力が記述できることが導かれます。有名なアインシュタイン方程式とは、時空の歪み=エネルギー密度 という等式を複雑な微分幾何学の数式で表したものです。

 不確定性原理により、演算子の交換関係が導かれます。場の古典論を量子化して演算子の形にしたとき、交換関係を使うとゼロ点エネルギーが出てきます。粒子エネルギーが基底状態にあってもエネルギーがゼロとはならず、常に揺らいでいて、それが不確定原理と密接に関係しているのがわかります。電磁場を考えても真空にはこの揺らぎがあり、実験でもカシミール効果として確認されています。

 残念ながら超ひも理論には、そのような原理が見当たらず、つじつま合わせに終始しているように見えます。もちろん物理理論の発端はつじつま合わせがほとんどですが、確立された理論には必ず確固とした原理があります。超対称性や双対性のような性質でなんとか発展させているように思われます。

 最近はM 理論と同等なブレーンという考え方も出てきていますが、ブレーンは超ひもをサポートして応用範囲を広げているような感じで、やはり主体は超ひものようです。ちなみにブレーンついては一般相対性理論にも対応物があり、ブレーンワールドなどの余剰次元理論を生み出しています。

 ここでは、あまり語られない超ひも理論の本質について掘り下げ、超ひも理論に内在する主張とその真偽のほどを考察します。それを通して、究極の理論として考えられるものはどのようなものか、はるか遠くを眺めてみます。

 場は連続体ではない

 超ひも理論がまず主張していることは、力や物質を成り立たせる素粒子が大きさを持っていることです。そんなことは当たり前に思えますが、標準模型で使われている場の量子論では、場はあくまで連続であり、粒子は点として記述されます。場の量子論が限られた範囲で成功しているのは、あくまで連続体である場をとにかく量子化して、不確定性原理を主体とした不連続性を取りこんでいるためです。

 場の量子論では、そもそも連続体を量子化することに無理があり、発散の問題を繰りこみ群を使って迂回しなければなりません。それも常に有効とは限らず、重力では繰りこみ不可能になります。その点、超ひも理論では、最小の単位が超ひもであり、たとえ重力も取り入れても、場の量子論のような問題は起きません。

 このことでは、超ひも理論は究極の統一理論の条件を満たしているようです。不確定性原理から言っても、場は無限小まで定義できないと思われ、少なくともプランク長立方ほどの体積以下では記述できないはずです。したがって場の量子論の延長では、統一理論はほとんど無理に見えます。

 万物は波動である

 あまりはっきりと明言した解説書は少ないかと思いますが、これは点ではない大きさを持っているというより重要な本質ではないでしょうか。量子力学で粒子が波動性を持つことははっきりしましたが、量子を記述する波動関数の実態は何なのか、その解釈は確立していなく、また量子の非局所性についても、ベルの不等式が実験的に示されたこともあって謎が深まっています。

 現在の量子力学で量子の実体があいまいになっているなか、超ひも理論はすべての素粒子はひもの振動であると主張しています。一次元的な(実際には高次元)ひもの振動モード自体が、物質を作るクォークや電子、力を媒体する光子やグルーオンなどのゲージ粒子に対応します。すべてはひもの振動、つまり波動であると主張していて、これは量子力学の解釈問題の一つの答えになっています。

 しかし、超ひも理論が量子力学の基本問題を決着させたという話はまったく聞きません。もし超ひもが量子の実体なら、超ひも理論が確率波の解釈問題を解いたり、量子の非局所性を説明できるはずです。できていないのは、何か新しい原理が必要なのか、あるいはどこかに誤りがあるかでしょう。究極の統一理論は、この問題に明快な回答を示せるはずです。

 量子力学の成り立ちから見て、すべては波動であるという主張はもっともらしく思えます。ソリトンのように波動でありながら粒子のふるまいをするものも数学的に証明されていますし、自然現象にも見出されています。しかし、これとて絶対的な根拠はなく、基本的な謎が解決されないかぎり、見直す必要があるかもしれません。

 なぜひも?

 この疑問に説得力をもって答えられる研究者は、おそらく現在一人もいないでしょう。すべてに最小単位があり、それは波動である、というところまではよいとして、なぜひもでなければならないのでしょう?

 もっとも正直な答えは、他では解析的にうまくつじつまが合わせられなかった、というものです。たしかにまずはつじつまが合わなければなりませんし、近似ででも計算ができなければ近代的な理論になりません。しかしつじつまが合うように計算できるだけでは、それが百パーセント正しいとは言えないはずです。

 計算できるかどうかを考えなければ、波動の形は他にも考えられます。実際、M 理論では膜のようなものを考えて超ひもモデルを統一しています。膜といってもチューブ状になっていて遠くからはひものように見えるという理屈です。

 それを考えると、ひもに似た何かの波動である可能性もあるかもしれません。またその何かはプランク長よりははるかに大きく、したがって内部構造あるいは内部パラメータがあるのかもしれません。

 ハドロンについていえば、クォークがひもによって結びついたモデルで説明できる部分があり、超ひも理論の発端にもなっています。もしクォークもさらに力の粒子でひものように結びついた粒子という構造になっているなら、究極的な構造としてひもに近いものが存在する可能性もあるかもしれません。

 ひもの大きさは?

 いちおうプランク長(10-35 m)ほどと説明されますが、10-34 mくらいという解説書もあり、究極の理論と言われているわりにははっきりしません。もっともプランク長ほど小さなものなら、量子力学の不確定性理論からも正確には測れないかもしれません。

 しかし素粒子がすべて超ひもの振動であるなら、プランク長ほどの大きさという主張とは矛盾します。たとえばクォークは10-18 m ほどと考えられていますが、これはプランク長より17桁も大きいです。もっとも素粒子の大きさに確かな測定はなく、だいたい点で十分ということになっているので、明らかな矛盾とは言えないかもしれません。

 ただ有名な電子の二重スリット実験を考えると、一個の電子でさえ確率波として明らかに目に見える範囲まで広がっています。電子を表現する超ひもは、このときこの範囲まで大きくなっているはずです。でなければ干渉縞は生じません。

 二重スリット実験のような飛んでいる電子ではなく、原子に束縛されている電子でも広がりはあると考えられています。分子を生成するときには、電子は混成軌道を構成し、さらに広がっていきます。ということを考えると、超ひもは伸縮自在でなければならない、となります。超ひも理論が発展すると超ゴム理論(?)になるのでしょうか。

 ここで言いたいことは、超ひも理論が究極の統一理論になるなら、二重スリット実験のような基本的な問題を明快に説明できなければならない、ということです。

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by scienceman | 2010-12-31 16:15 | 現代物理

by scienceman