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サイエンスマンの本格科学メモ

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現代物理、進化論、脳科学など、現代の科学についての個人的思考を中心に記録します。

量子力学の解釈

 量子力学の計算結果が測定と一致していることは広く認められていますが、その解釈についてはいくつかの説があります。もっとも「コペンハーゲン解釈」という説明がいちおう主流とも言える考え方ですが、ただ「シュレーディンガーの猫」のような謎も残っていて、反論も少なくないようです。

 シュレーディンガーの枠組みでは、量子力学を記述する方程式は、波動関数(確率波)ψ(x,t)にたいして
                    Hψ = i(h/2π)∂ψ/∂t
となります。ここでHは系のエネルギーを表わすハミルトニアン演算子です。このときたとえば粒子が位置xにある「確率密度」は|ψ(x)|2で表わされます。しかし粒子の位置を測定したときにはすでに位置の値は定まっているので、確率密度はその位置が百パーセントになっています。コペンハーゲン解釈では、測定したときには確率波は収縮していると解釈します。しかし観測によって収縮するとするとあいまいになるし、何がトリガーで収縮するのか不明です。収縮の途中で五分五分の状態があるとすれば、シュレーディンガーの猫のようなパラドックスも生じてしまいます。

 これに対してエベレットは、確率波の収縮ではなく、すべての確率波は実現しているという多世界の解釈を提案しました。確率波は収縮するのではなく、すべての測定値は別の世界として実現しているのだという説です。したがってシュレーディンガーの猫は、生きている猫と死んでいる猫が両方存在していることになり、矛盾はなくなります。しかし確率という考え方をこの説に取り込むのが難しく、やはりすっきりとはしません。

 ほかにもコペンハーゲン解釈の修正版などいくつか解釈がありますが、すべてに共通しているのは、シュレーディンガー方程式で記述される確率波は量子の実在している状態を表わしていると考えていることです。実在しているからこそ、収縮しなければならないし、多世界として存在しなければならないわけです。ですが、確率波そのものは観測できないですし、ほんとうに実在しているのでしょうか?

 そう考えると、もっとも矛盾のない量子力学の解釈は、そもそも確率波というものは仮想の概念で実在しなく、ただ測定値が計算できるだけのツールにすぎない、ということになります。つまり前提として、測定は複数回行なわれ、単にそのときの確率分布がシュレーディンガー方程式で計算できるということではないでしょうか。悪く言えば、量子が何なのかわからないまま計算だけしているのが現在の量子力学かもしれません。

 確率波が実在しないなら、収縮する必要はないですし、多世界をもたらすこともありません。実在するのは確率波によって計算できる確率分布にしたがった複数の測定値だけです。アインシュタインは量子力学を批判して「神はサイコロを振らない」「量子力学は不完全で隠れた変数が存在する」というようなことを言っています。サイコロについては、むしろ自然はサイコロを振って測定値をもたらしているのであり、シュレーディンガー方程式はまさにその仮想サイコロの方程式です。しかし、この解釈によれば、量子力学は不完全であることは的を得ているように思えます。おそらく、量子が何なのか説明できるまでは不完全なままかもしれません。
 

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隠れていた宇宙 (下)

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by scienceman | 2012-02-06 09:27 | 現代物理