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サイエンスマンの本格科学メモ

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現代物理、進化論、脳科学など、現代の科学についての個人的思考を中心に記録します。

ダークエネルギー

 2011年のノーベル物理学賞は、Ia型超新星を標準光源にした赤方偏移の観測において、宇宙の膨張が現在加速しているという結果に対して与えられました。アインシュタイン方程式を前提にすれば、これは宇宙定数(宇宙項)の復活を意味します。宇宙定数を方程式の右辺に移せば、これは反重力的な真空のエネルギーと解釈でき、ダークエネルギーの存在が示唆されます。

 宇宙の膨張を表現するフリードマン方程式において、真空を流体とみなした時の一般的な状態方程式
                 p = ωρ
で表わされるものが「ダークエネルギー」です。ここでpは圧力、ρは密度で、ωはモデルによって決まる係数です。宇宙定数ではω = -1 となります。他のモデルではωが時間の関数になるものもあります。

 宇宙定数モデルでは、真空のエネルギーが問題になりますが、これが混乱をもたらしています。たとえばカシミール効果での計算においては、金属板間の真空に発生するエネルギーは
               E = (1/4) Σn h ωn
となります。ここで、hはプランク定数、ωnはnモード目のフォトンペアの角振動数です。ωnが無限大のエネルギーは無限大なのでE、すなわち真空のエネルギーは無限大になります。しかしカシミール効果の場合は、金属板間に働く力が知りたいのでエネルギーの差を計算すればよいため、無限大から無限大を引く「正規化」と呼ばれる一種の繰り込みが可能です。したがって金属板間に働く力は、有限で小さな値になります。

ですが、アインシュタイン方程式ではエネルギー密度がもろに代入されるので、繰り込みは使えません。無限大のままでは計算できないため、エネルギーの加算でプランク長より波長が短い高エネルギーの量子を除きます。それが観測より予想される値より120桁大きいというエネルギー密度値です。これは超対称性を使っても大した効果はありません。プランク長でカットすれば有限にはなりますが、しかし理論が有効と思われる範囲で加算すれば正しい答えが出るだろうという根拠がわかりません。これは桁数が大きいというより、あくまで無限大が理論の結果で、むしろ理論が破綻しているような気がします。おそらく無限小の波長で無限大のエネルギーを持つ量子が真空中に発生する確率は無限小でしょうから、「真空の量子統計力学」のような理論が必要なのかもしれません。

 ダークエネルギーのモデルとしては、未知の場を想定するものやクインテセンスのような第五の元素を使うものがあります。モデルによって係数ωが違いますが、観測ではまだ正しいものを選択する精度がありません。これからの精細な観測が期待されます。

 ダークマターも含めると現在、宇宙の物質(=エネルギー)の96%が正体不明という異常事態です。このような事情から、ダークマターやダークエネルギーを仮定せず、ニュートン力学や一般相対性理論を修正して宇宙を説明しようという流れも考えられます。観測といっても、ダークマターやダークエネルギーについては状況証拠しかありません。つまり銀河や銀河団のスケールで万有引力の法則やアインシュタイン方程式が成り立つことを前提にしていますが、その直接的な証拠はまだありません。ですから、重力理論を修正するという方向は可能性として常に残されています。

宇宙のダークエネルギー 「未知なる力」の謎を解く (光文社新書)

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見えない宇宙 理論天文学の楽しみ

ダン・フーパー / 日経BP社


重力の再発見―アインシュタインの相対論を超えて

ジョン・W・モファット / 早川書房


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by scienceman | 2012-04-06 17:55 | 宇宙論