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サイエンスマンの本格科学メモ

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現代物理、進化論、脳科学など、現代の科学についての個人的思考を中心に記録します。

すべては仮想現実?

 たとえば晴れた日に出かけ、高原に立って向こうを眺めると、次のような光景が見えます。
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    図1 元の風景

当たり前ですが、木々はそこにあるように見え、遠くの山も確かに霞んで存在します。景色は平面的な絵ではなく(図では平面ですが)、ちゃんと立体的に見えます。それはまったく当たり前の出来事であり、そこには何の謎もないように思われます。

 ところが、実際に眼に直接入る光の情報を考えてみると、愕然とします。網膜に光が入力されるわけですが、それはまったく平面の画像でしかありません。もちろん左右二つの眼があって、視差情報が立体感をもたらしますが、片方の眼だけでもそれなりの立体感はあります。要するに入力される情報は、単なる平面画像に過ぎないわけです。
 しかも網膜に分布する視細胞は、視野の中心付近では密にありますが、周辺にいくほどまばらになります。画像としては周辺にいくほどボケてしまいます。また色を識別する錐体細胞は視野の中心に集中し、周辺では疎になります。逆に明るさだけを感じるかん体細胞は中心付近にはなく、周辺に密に分布します。つまり中心付近は色が鮮やかに見え、周辺ではモノクロの画像がぼけて見えます。もし網膜に映っている画像情報を絵に変換することができたら、次のように見えるはずです(盲点、眼球運動は除く)。
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もちろん上は概念的な図であり、現実には違いますが、逆さでもともとの景色(図1)から大きく外れていることは確かです。光が網膜に入ってから視神経が発火すると、神経細胞による論理によりすぐエッジが強調されます。すると次のように変換されます。
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もちろんまた概念的な図です。この情報が脳に送られるわけです。ここで言いたいことは、脳に送られる情報は、元の景色とは似ても似つかないものだということです。

 ではなぜ私たちは、図1のような景色を自然に知覚するのでしょうか。それは入力された似ても似つかない情報から、脳が図1のような立体的な景色を組み立てるからです。すべて脳の中で組み立てられ、一つの3D画像が生成されるのです。つまり私たちの知覚(図1)は、現実には存在しないものであり、頭の中で組み立てられたもの、仮想現実に過ぎません。

 したがって、頭の中で組み立てるときに誤りを犯すこともあります。いわゆる錯覚、錯視です。心理学の教科書にはいろいろな錯視の例があります。もっとも謎の多い錯覚は、地平線付近にある月の大きさです。50%くらい大きく見えます。
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実際の月の大きさは常に、腕を伸ばして持った五円玉の穴くらいなので、これは錯覚と言えますが、その理由には古くからいくつかの説明があります。その一つには、遠くにあるものは大きく見える錯覚から由来する、というもの。月は水平線に近いほうが天空にあるより、実際に遠くにあります。そして同じ円でも遠くにあるものが大きく見えるという錯視があります(ポンゾ効果)。しかし、50%というのはかなり大きいです。手前にいる身長150センチの人が、遠くにいると2メートル以上に見えるということですから、ちょっと信じがたい気がします。ですが、周囲の景色が影響した錯視なのは大いにありそうですし、また、原因は一つではないのかもしれません。

 脳の中で仮想現実がどのように組み立てられるかは、謎の部分が多いです。地平線月の例もしたがって決着がついていません。心理学とそれによって示唆される脳科学によって解明されるときが、いずれくるのでしょう。

ヒルガードの心理学

スーザン・ノーレン・ホークセマ / 金剛出版


認知心理学 (New Liberal Arts Selection)

箱田 裕司 / 有斐閣


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by scienceman | 2012-10-03 18:01 | 心理学